南三陸311メモリアルには、「もしあなたが3月11日その場にいたらどう判断し行動するか」を考え、自分の命を守るために何が必要かを考えるための展示が館内に用意されています。
南三陸町の被災実態をまとめたパネルや被災者の証言映像、それらをもとに制作したラーニングプログラムなど、この町のこの伝承館だからこそご覧いただけるものになっていますが、「みんなで南三陸」という写真展示も、その中の1つです。
南三陸の町民とともに、2013年から2021年にかけて作品集を作り上げたのが、写真家 浅田政志さんです。
被災直後の町民とアイデアを出し合いながら撮影し、復興を進めてきた町民の力強さと明るさが笑顔とともに伝わる写真には、多くの方が足をとめてご覧になっています。
<浅田政志氏 プロフィール>------------------------------------------------------
写真家。1979 年三重県生まれ。
日本写真映像専門学校研究科を卒業後、スタジオアシスタントを経て独立。
2009年、写真集『浅田家』(2008年赤々舎刊)で第34回木村伊兵衛写真賞を受賞。
2010年には初の大型個展、『Tsu Family Land 浅田政志写真展』を三重県立美術館で開催。2022年には『だれかのベストアルバム』を水戸芸術館で開催した。パルコギャラリー、森美術館、入江泰吉記念奈良市写真美術館、香港国際写真フェスティバル、道後オンセナート2018、八戸市美術館、水戸芸術館等、国内外での個展やアートプロジェクトにて精力的に作品を発表している。
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そんな写真家浅田政志さんと当時の思い出を語り合うイベント『写真家 浅田政志さんを囲んで「みんなで南三陸」を語ろう』が、南三陸311メモリアルにて開催されました。
今回は、3月18日(土)に開催されたイベント2日目の様子をお伝えします。
この日会場に集まったのは、実際に写真の中に登場した方々をはじめとした町民のみなさん。
最初に、イベントのコーディネーターを務めた吉川由美さん(「みんなで南三陸」プロジェクトディレクター)から、浅田さんが南三陸町に関わることになった震災後の最初の追悼式の話が紹介されました。
その追悼式での撮影から今日に至るまで、10回以上にわたり町へ足を運んでいただきました。その中で様々な町民と出会いながら、撮影を行ったといいます。
吉川さんは、震災前から南三陸町と繋がりがありました。被災直後に支援物資をもって町に来たときに、震災でこれだけの規模の被災をしたにも関わらず、多くの町民が避難所では笑顔で吉川さんを迎えたことに衝撃を受けたといいます。笑顔で明るく声をかけてくれる町民たちに驚きながらも、大切な何かを失った事実もあるはずだと感じていた吉川さん。この被災の中でもくじけず前を向こうといている町民たちの姿こそ、残しておくべきではないか。そう感じた吉川さんは、この撮影を頼むなら浅田さんしかいないと思い、すぐに相談したそうです。
三重県津市出身の浅田さんは、吉川さんに相談を受けて初めて南三陸町に足を運んだそうです。それから気が付けば10回以上も訪問。自分の撮影した作品を、モデルになった方々と振り返る機会は浅田さん自身も貴重とのことで、今回とても楽しみにしながらやってきてくださったそうです。
お二人のあいさつの後、写真を眺めながら早速トークスタート。
最初は、2人の漁師と船上で撮影した写真。実際の作品の写真と、撮影中の様子の写真を順番に眺めます。
「僕の写真は演出写真という分類になるんです。」目に見えるものをそのまま切り出すのではなく、人の立ち位置や顔の角度にこだわり、時には様々な小道具を使いながら撮影することで、時間はかかりながらも映る人たちのおもしろさを撮影することができると、浅田さんは語ります。
今ではなくなってしまった戸倉地区タブの木漁協直販所の写真では、会場で参加した方から「当時宮城県漁協として初めての直販所だった」とお話がありました。そして、まるで宝塚かと思うような感じが印象的だったと浅田さんが語る入谷地区ぬくもり工房の写真では、「当時は恥ずかしかったけど、今見ればずいぶん若いわぁ」と、写真に登場したからコメントが。浅田さんは、写真を撮ると被写体の方々の関係性がなんとなく伝わってくると言います。「そうなんです、いつも笑いながら仕事してます」と、当時から今も関わるスタッフの方のコメントに、会場が笑顔になりました。
そして、トークは戸倉地区波伝谷漁港で撮影された戸倉かき生産部会のみなさんの一枚に。
戸倉地区の牡蠣(戸倉っこ牡蠣)かきは、ASC認証という国際認証を取得しており、この撮影が行われたのは取得することが確定したときだったそうです。しかし、撮影の当日まさかの台風に。沖で災害復旧を行っていたにも関わらず、漁師たちは集まって撮影を行ったそうです。
その中の1人だった方は、「本当にこの写真は奇跡がいっぱい入っているんです」と話され、他にもいろんな人が同じようなアングルで撮影しようとしても全然同じようには撮れないということ、撮影後に亡くなってしまった親友が写っていること、その写真がテレビなどを含め本当に様々なところで使われていること、それらが嬉しいんですと、時折写真を指さしながらお話されていました。
また、大漁旗を掲げた撮影は数多く撮影されていますが、多くは風もなく下に垂れ下がるため全員の顔が見えることは少ないとのこと。この作品には30名以上の漁師たちが写っていますが、たなびく大漁旗とともに全員の顔がちゃんと見えます。これは神風だと、浅田さんも笑顔でうなずいていました。
戸倉地区の行山流水戸辺鹿子躍のみなさんと撮影した写真では、メイキングの写真をみながらどのように演出にこだわったのかをお話いただきました。全員が立って横に並んでみたり、踊り手のメンバー以外にも会長も入ってみたり、手前に座ってみたり、いろいろ試したといいます。
当時中学生で被災し、長年この水戸辺鹿子躍で活躍している方は、小学生から年配のベテランまでが一緒に笑顔で写っているのがいいと言います。「そうやって様々な年代の方が一緒になって継承していくのが伝統芸能であり、それがあるからこそ復興の底力が違ってくるんだ」と、吉川さんも深くうなずきながら話されていました。
東日本大震災からの復興を目指す中で、くじけずに前に進んできた南三陸の人々の姿を残そうと始まったこのフォトプロジェクト。
写真に写っている笑顔も本物ですが、その陰では泣いたり悩んだり、本当に苦しんだりしたことがたくさんあったはず。それでも、笑顔を忘れずに一歩一歩前に進むことができていたこと、そこに心からの尊敬があると、吉川さんは仰います。
最後に、南三陸に撮影のたびに訪れ、様々なコミュニティの人と出会う中で、自分自身本当にいろいろなことを教えてもらったと、浅田さんは語りました。「家族でもなく、同年代でもない人たちが一緒に何かに取り組んでいる姿を見ると、そういうものこそ生きるためには必要なんじゃないかということを、本当に南三陸の人たちに教えてもらった気がします。」
新型コロナウイルスの感染拡大や南海トラフ地震の予測など、予測不能な世の中で、南三陸で教えられたことを生かしていきたい、そしてまた南三陸でみんなと写真を撮りたい。そんな想いを、イベントの最後に浅田さんは語られました。
東日本大震災から12年。薄れていく記憶もある中で、写真として残されたものはどれだけ時が経っても変わらないもの。あの震災から立ち上がり進んできたという事実こそ、伝え繋いでいくべきだと感じます。浅田さんと南三陸の町民がともに作り上げた作品集「みんなで南三陸」が、それを未来に伝えてくれるのではないかと思います。
町のみなさんが時に笑顔で、時に昔を思い出す真剣な顔をしながら、うなずき、話されていた今回のトークイベント。またいつか、ご参加いただいたみなさんと写真を眺めながら笑顔でお会いできるのを楽しみにしております。
浅田政志さんと南三陸町民が作り上げた写真作品集「みんなで南三陸」は、19点を抜粋して南三陸311メモリアル みんなの広場にて展示中です。今後も一部展示を変更しながら、ご来場いただくみなさまに南三陸町民の笑顔をご覧いただければ幸いです。
<イベント概要>---------------------------------------------------------------
開催日時:1回目/3月17日(金) 18:00~19:30 2回目/3月18日(土) 13:30~15:00
会場:1回目/南三陸311メモリアル ラーニングシアター 2回目/南三陸ポータルセンター
ゲスト :浅田政志(写真家)
コーディネーター:吉川由美(「みんなで南三陸」プロジェクトコーディネーター)
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