2023年3月11日、東日本大震災発生から12年の時が経ちました。
春らしい陽気となったこの日、道の駅さんさん南三陸には溢れかえるほどたくさんの方が訪れました。震災当時のことを思い出し、改めて自然災害や防災について考える方が多いこの時期、南三陸311メモリアルでは特別なツアーを実施しました。3月11日・12日の2日間限定企画「南三陸311メモリアルと現地で学ぶ『もしも』の時に備えるツアー」です。
南三陸311メモリアルのラーニングプログラムを視聴した後、証言映像に出てきた場所を訪れ、当時の状況をより自分ごととして想像しながら現地を歩きます。今回は、11日に行われた「当時の小学生の避難行動を追体験するコース」の様子を取材しました。
今回、ツアーに参加された方は、単身、ご夫婦、子ども連れのご家族とさまざまです。ラーニングプログラムが上映されるまでの時間、参加者は東日本大震災に関するデータをまとめたパネルや証言映像、昔の町の写真などを見て過ごします。立ち止まって真剣に展示を見ている方、証言映像を見て涙を拭っている方がいらっしゃいました。
今回のコースで受講するラーニングプログラムは「プログラム1 生死を分けた避難」です。
生死の分かれ目に直面した住民たちの証言映像をもとに、震災直後の人々はどう行動したのかを知ることができます。
証言者の1人は震災当時の戸倉小学校の校長先生です。震災前から、地震が来た際の避難について先生たちと議論を重ねていた校長先生。東日本大震災の時、高台避難か屋上避難か、どちらの避難を選択するか、決断を迫られたと言います。あの日、児童と地域住民が避難したのは高台の五十鈴神社。雪の降る寒さの中で、当時の小学生たちがどう過ごしていたのか語ります。
プログラムの中では、いくつかの問いかけに対して、参加者同士で話し合う時間が設けられています。周りの人と話しながら、いざ自分だったらどのように判断するか、自分ごととして考えを深めていました。
そして、プログラム視聴後、ガイドの案内のもと、当時の小学生と地域住民が避難した現場へ向かいます。校舎は津波で被災し、現在は別の場所に移設されました。ガイドの方から、跡地に立っている電柱と同じくらいの地点まで津波が来たということを聞き、参加者の皆さんは神妙な面持ちで上を見上げます。
この場所に小学校があったことを想像しながら過ごした後、当時小学生たちが避難した神社へと移動しました。勾配のある坂を登り、赤い鳥居の手前まで来たところで海が見えました。随分と遠くに見えるあの海が、津波となってこの場所まで押し寄せてきたということの凄まじさを、参加者の皆さんは実感している様子でした。
小学生たちが一晩を過ごした神社の一番高いところへ登ります。思わず参加者の方が「ここで小学生全員が過ごしたんですか?」と確かめるほど、その場所は狭く、小さな本殿だけがひっそりと建っている場所でした。
木に囲まれた神社の真上は空が開けています。当時、雪が散らつく中、満天の星空を見たという校長先生の証言が思い出されました。
参加者の方から、このような感想をいただきました。
「東日本大震災が発生した年にこの子を産んだんです。失われた命がたくさんあったタイミングでこの子が生まれたので、一度は被災地に足を運びたいと思っていました。でも、どうしても行く覚悟ができなくて…。この子もこれだけ大きくなったので、震災のことを知ってほしいなと思い、家族で参加しました。私たちも知らないことがたくさんありましたし、子供たちも真剣に学んでいたので、連れてきてよかったと思いました」
「自分と同じ小学生の子たちがここまで避難してきたと聞いて、生き残れたのってすごいことだったんだなと感じました。映像を見て、実際にこの町でこんなことがあったんだと、すごく実感できました。津波って、綺麗な海の水が5mくらい来たのかなと思っていたけれど、想像とまったく違って驚きました」
「震災後、町に来た時、津波を被った戸倉小学校に漁具が引っかかっている光景を見たことがあったんです。プログラムを受講して、当時の校長先生の判断で小学生みんなが助かったと聞きました。自分が校長先生の立場だったら、屋上避難でいいと思ったかもしれないなと想像して視聴しましたね。何十回と南三陸町に来ていますが、改めて防災について考えたいと思うきっかけになりました」
東日本大震災から長い月日が経ちましたが、あの日のことを知るのに、防災や命について考えるのに、遅すぎるということはないのだと思います。
南三陸311メモリアルでは、町民たちの貴重な証言映像を展示しています。映像を見ると、1人1人が違う経験をして、さまざまな思いを抱えながら過ごしてきたことを追体験できます。さらに、今回のツアーのように、証言に出てきた場所へ行ってみることで、より自分ごととして感じられ、心に刻まれることでしょう。
これからもここで伝え続けていくことの意義を強く感じたツアーとなりました。